『想い寄せて』
恭也の前にクラスメートでまあ、親友と言っても差し支えのない二人が立っていた。
「どうしたんだ?赤星、忍」
「ああ、高町。今から時間あるか?」
「ああ、暇を持てあましていたところだ。と、言いたいんだが悪いな。
今は、鍛練を禁止されているんだ」
「ああ、今日はそういう用じゃないんだ」
「じゃあ、なんだ」
「あ、それは私から説明するね。じゃ、じゃーん。これなんだと思う?」
そう言うと忍は恭也の目の前にチケットを掲げて見せる。
「遊園地のチケットだろ。それがどうしたんだ?」
「そう。それで、これ今日までみたいなんだ。だから、行こうよ」
「うーん」
「あと美由希ちゃんも一緒にね」
「美由希もか?」
「そう、丁度4枚あるから」
「だったら、なのはを連れて行ってあげてくれ」
「そうね。なのはちゃん、行く?」
「ごめんなさい忍さん。私、今日は午後から晶ちゃんとレンちゃんに料理を習うことになってるから」
「ん、別にいいよ。気にしなくても。と、いう訳だから諦めなさい。ちなみに、那美も今日は用事で駄目だからね」
「・・・まあ、たまにはいいだろう。分かった、付き合おう。じゃあ、美由希を呼んでくるから少し待っててくれ」
「はーい」
恭也の台詞に元気に返事すると忍は赤星の耳にそっと囁く。
「じゃあ、後は赤星君が頑張ってね」
「お、おう」
「???」
小声で話す二人に疑問を浮かべるなのはに忍は笑いかけながら、何でもないと手を振る。
そのうち、美由希を連れた恭也が現われる。
「じゃあ、行こうか」
忍の出発の声を合図に四人は駅へと向って歩いていく。
◇ ◇ ◇
「じゃあ美由希ちゃん、次は何がいい?」
「そうですね、次はあれなんかどうですか?」
赤星の問いかけに美由希はアトラクションの一つを指差し尋ね返す。
そんな二人の後ろを忍と恭也が付いて行く。
忍は楽しそうな笑みを浮かべながら、前を歩く二人を優しく見守る。
「あの二人結構、仲いいよね」
「ん?そうだな。赤星とは結構長いし、家にもよく来るからな」
「お兄ちゃんとしては心配だったりして?」
「何、訳の分からん事を」
後ろで会話をしている忍と恭也を見ながら、赤星は美由希に話し掛ける。
「あの二人、仲が良いな」
「ああ、恭ちゃんと忍さんですよね。確かに仲が良いですね」
「美由希ちゃんも心配だね。こうもライバルが多いと」
「あ、あわわわわ。な、何を言ってるんですか。べ、別に私は・・・」
「本当に?」
急に赤星は真面目な顔になると真剣味を帯びた声で聞く。
「勇吾さん?」
「だったら・・・・・・・・・」
何かを言おうとした赤星よりも少し早く忍が声をかけてくる。
「ねえ、ちょっと疲れたからさ、一休みしない?」
「そ、それもそうだな」
気勢を削がれる形になった赤星は力なく同意すると、近くにあったベンチに腰掛ける。
恭也もその横に座る。それを見ながら忍は美由希に声をかける。
「美由希ちゃん、何かドリンクでも買ってこよう」
「あ、そ、そうですね。じゃあ、ちょっと行って来る」
「ああ頼む。俺たちはここにいるから」
美由希は少し動悸の早くなった胸を押さえつつ、忍の後に付いて行く。
そして、その場に恭也と赤星だけとなる。しばらくお互いに無言だったが、意を決っし赤星が恭也に話し掛ける。
「なぁ、高町」
「なんだ」
「ああ、実はな・・・・・・美由希ちゃんの事なんだが」
赤星はそこで言葉を区切ると言いにくそうに俯く。
恭也も無理に促したりせず、赤星が話し出すまで待つ。
やがて、
「もし、俺が美由希ちゃんが好きだと言ったらどうする?」
突然の赤星の言葉に恭也は言葉に詰まる。
「・・・赤星、本気か?」
「冗談でこんな事、言うと思うか」
「・・・・・・いや」
「で、どう思う?」
「あ、ああ。別に良いんじゃないか」
なぜかズキズキと痛みだした胸を押さえながら恭也は赤星に答える。
「本当だな?」
赤星は恭也の目を真っ直ぐに見詰め、問い掛ける。それに対し、目を逸らしながらも恭也は頷く。
と、その時恭也の背後から物音が聞こえ、そちらを向く。
そこには飲み物を手にした忍と目に涙を滲ませ、茫然と立っている美由希がいた。
美由希の足元には二人分のコップが転がり、中身が零れて地面を濡らしていた。
おそらく、先程の物音は美由希が飲み物を落とした音だろう。
「美由希・・・・・・」
美由希に今の会話を聞かれたと知った恭也の胸に再び、痛みが走るがそれを無視して美由希に声をかける。
だが声をかけられた美由希は数歩後ずさりすると、踵を返し走り去っていく。
「・・・・・・美由希!」
その後を恭也が追いかけていく。
それを溜め息をついて見送り、忍は赤星の横に座ると手にしたコップの一つを赤星に渡した。
「・・・で?」
「見てのとおりだよ」
それっきり会話も無く時間は流れていく。
一方、美由希を追いかける恭也は人ごみのせいもありまだ追いつけずにいた。
人波に見え隠れする美由希を必死になって追いかける。
(なんで、美由希は逃げてるんだ?俺もなぜ追いかけている?)
なぜこういう事になったのかも分からないまま、恭也はただ美由希を追いかける。
今の恭也の頭の中は先程見た美由希の泣き出しそうな顔で一杯だった。
(そういえば昔、とーさんと美由希と一度だけ遊園地に来た事があったな。あの時も美由希は・・・)
恭也は美由希を追いながら少し昔の事を思い出していた。
士郎に連れられて行った遊園地で恭也と美由希は士郎とはぐれてしまい、美由希が泣きそうになる。
「うぅーグスグス。お兄ちゃーん・・・・・・。おとーさんはどこー?」
「大丈夫だから、泣くな美由希。すぐに見つかる」
恭也は必死になって美由希を宥めるが、まだ幼い美由希はついに泣き出してしまう。
「う、うわぁぁぁぁん。おとーさん、わ、私を置いて何処に行ったのー。ぐすぐす、ひ、一人は嫌だよ〜」
恭也は泣いている美由希を優しく抱きしめてその耳元に何かを呟く。
初め、それを聞いた美由希は驚いた顔をして、それから嬉しそうに笑った。まさに今泣いた子が、である。
だが、この時の恭也は美由希が泣き止んだ事に安堵し、また美由希が笑った事で自分も嬉しく感じていた。
この後、恭也は美由希を連れて迷子センターまで行き、士郎を呼び出してもらった。
この時、アナウンスの女性に士郎が迷子と説明し、
またその女性も恭也の落ち着いた雰囲気から何の疑問も持たずにそのままアナウンスをした。
その為、やって来た士郎に恭也が殴られるというようなエピソードもあったりしたが。
走りながら何故、昔の事を思い出したのか。そんな事を考えながら美由希の後を追う。
徐々にその距離は狭まっていく。更に、人の少ない方に美由希が走っている事も手伝い、更に距離を縮めていく。
(そういえば、あの時、俺は何と言って美由希を宥めたんだったかな?)
そんな事を考えながら、美由希を追ううちに全然人気の無い場所に出る。
そこは、木々が生い茂るちょっとした広場みたいになっており、恭也たちは木々が立ち並ぶ林へと入っていく。
林に足を踏み入れた瞬間に恭也は一気に走る速度を上げると美由希に追いつき、その腕を掴む。
掴まれた美由希は半狂乱に近い状態で振りほどこうと腕を滅茶苦茶に振り回す。
「落ち着け!美由希!」
「やだ!離して!恭ちゃん、離してよ!」
「くっ!」
恭也は一旦、美由希の腕を離す。急に掴まれていた腕を離され、美由希の身体が少し慣性で流れる。
その隙に恭也は美由希の正面から両肩を掴み、完全に捕まえる。
「うぅぅ」
両肩をがっしりと掴まれ観念したのか、美由希は大人しくなり、少し涙の滲んだ目で恭也を見る。
(ああ、そういう事か)
美由希の両肩を掴み、美由希の顔を見た時、恭也は何故、昔の事を思い出したのか理解した。
(あの時の美由希の顔も、今この時の美由希の顔もひどく似ているからか。
自分の傍から大事な人がいなくなり、置いていかれるという不安を感じている顔に。
そうか、だから俺はあの時、美由希に・・・・・・。そして、俺は・・・・・・)
恭也は昔、美由希に言った言葉を思い出す。
それと同時に今までよく分からなかった事にはっきりとした答えを見つける。
恭也は昔、美由希にしたようにそっと抱きしめると、耳元に口を近づけそっと話し出す。
「美由希・・・・・・。昔もこれに似たような事があって、その時に俺が言った事覚えているか?」
「・・・うん。覚えているよ」
恭也に抱きしめられ、幾分落ち着きを取り戻した美由希は静かに返事をする。
「そうか・・・。あの時、約束したからな。ずっと美由希の傍にいると」
「うん」
「お前は、・・・ずっと俺の傍にいてくれるか?」
「えっ!それって、どう意味?」
「・・・・・・あー、つまり、だな。さっき赤星と話していて、その、赤星が美由希のことを好きだと言った時に気付いたというか。
いや、気付いたのはついさっきなんだが。だから、・・・・・・その・・・なんだ」
恭也は言葉に詰まりながらも、何とか告げようとする。
やがて、恭也は抱きしめていた美由希から少し距離を取り、真っ直ぐに美由希の目を見るとゆっくり口を開く。
「俺は美由希の事を妹とか弟子とかじゃなくて、一人の女性として好きだ。・・・・・・愛してる。
だから、俺は俺の全てを持って愛するおまえの傍にずっといて、あらゆるものから守り続けていく」
「恭ちゃん・・・・・・。私も、ずっと前から恭ちゃんの事、兄としてじゃなくて好きだったんだよ。私も愛してるよ。
だから、私も私の力の全てで愛してる恭ちゃんの傍でずっと一緒にいて、どんなものからでも守るよ」
そう言うと美由希はそっと目を閉じる。
恭也もそれに答えるように右手を上げ、美由希の頬を優しく撫でるとそっとくちづける。
それは新たな誓いを交わす儀式のように自然な動きで、
それを祝福するかのように木々の隙間から零れ落ちる光が二人を優しく包み込んでいた。
しばらくして、恭也は美由希から顔を離すと、優しく微笑みかける。
「でも、赤星にはどう説明すれば・・・」
「うっ。た、確かにどうしよう。
私、勇吾さんの事は嫌いじゃないけど、それはやっぱり恭ちゃんに対する気持ちとは違うから、
何も知らずに、あのまま言われても断わったよ」
「ああ。それでも、やっぱり正直に言おうと思う。
それで赤星にどんな事を言われるかは分からないが、それでも俺は美由希と一緒にいたいからな」
「恭ちゃん・・・」
「美由希・・・」
二人は軽く触れるだけのキスを交わすと、赤星たちが待っている場所へと戻るため着た道を引き返す。
そして、その場所で恭也たちを待っていたのは、
ニヤニヤと悪戯が成功したような笑みを浮かべる忍と、こちらは普通に笑顔を浮かべている赤星だった。
「やっほー、恭也。どうしたの二人して仲良く手なんか繋いじゃって〜」
恭也は忍の軽口には付き合わず、美由希の手を離し真っ直ぐに赤星の所へと行くと、いきなり頭を下げる。
「すまん、赤星。お前に美由希は譲れない」
「ごめんなさい、勇吾さん」
美由希も赤星に頭を下げる。そんな二人を赤星は困ったような顔で見る。
「あのな、高町」
「弁解する気はない。ただ、お前だから駄目だと言った訳ではない。その・・・、俺も美由希の事が好きだから」
「わ、私も恭ちゃんじゃないと駄目なんです。だから・・・」
「許してくれと言えた義理ではないが、できれば許して欲しい」
「お願いします。代わりにできる事があれば、何でもしますから」
二人は真剣な目をして赤星に迫る。
赤星はそんな二人の気迫に少し後ずさりながら、引き攣った笑みを浮かべ、口を開く。
「本当に何でも良いんだな」
「ああ、できる範囲で、だが」
「なら、俺がこれから言うことを聞いてもに怒らない、っていうのはどうだ?」
「それだけで良いのか?」
あまりにも簡単な要求に恭也は逆に拍子抜けしたような顔になる。
元から、罵詈雑言を浴びせられるぐらいの事は覚悟していたため、恭也はこの要求を飲む。
「で、どうだ?」
「ああ、それで良いのなら」
言って、恭也は赤星からの言葉を待つ。やがて、赤星から言葉が投げられる。
「とりあえず、二人ともおめでとう」
予想外の言葉に二人はきょとんとした顔になり、何かを聞こうとする。
が、赤星が言葉を続けたため、とりあえずは黙って聞く事にする。
「それと、すまん。今回の事は、俺と月村さんで仕組んだ事だ。
正確に言うなら、月村さんが企画して、俺はそれに協力しただけなんだがな」
その言葉に恭也は忍の方を向くと、無言で説明を求める。
恭也の迫力に乾いた笑みを浮かべながら、忍は説明を始める。
「は、はははは、だって二人ともお互いの事、意識してるのに全然進展がないんだもん。
特に恭也なんか自分の気持ちにも気付いてなかったでしょ。だから、ちょっと炊き付けてみようかと思って・・・。
どうやら、上手くいったみたいで良かったわ〜。あはははは」
笑って誤魔化そうとする忍を恭也は睨みつけるが、ふと視線を和らげると、
「まあ、確かに多少は感謝した方が良いんだろうな」
「そうそう。さっすが、恭也。よく分かってる」
「調子にのるな」
そう言って、恭也は軽く忍の頭を叩く。
「はーい。それよりも、まだまだ時間はあるんだからもっと遊ばなくちゃね」
そう言うと忍と赤星は先に歩いて行く。
その後を恭也と美由希も慌てて追う。当然のように手を繋いで。
それを見た忍が口を尖らせて、
「あーあ。そんなに見せ付けてくれちゃって〜。独りモンには辛いわ〜」
「だったら赤星と繋いでろ」
からかわれた恭也がそう返すと、忍はにやりと唇を吊り上げ恭也の横に来る。
「何を言ってるのよ恭也。手は二つあるでしょ」
そう言って恭也の腕に自分の腕を絡めようとするが、
「だ、駄目です!忍さん!」
美由希の声でその動きを止める。
「あら、美由希ちゃん意外と独占欲が強いのね」
からかわれたと分かった美由希は顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「忍、やりすぎだ馬鹿者」
恭也は再び忍の頭を叩く。
「反省してるってば」
「反省するだけでなく、その反省を次に活かして欲しいもんだな」
「忍ちゃん、何も聞こえな〜い」
忍は自分の両耳を塞ぐと、前を歩きながら苦笑している赤星の所まで逃げる。
「ったく、あいつは」
恭也は溜め息一つ吐くと横を歩く美由希を見ると、繋いでいた手を離し軽く腕を曲げて美由希の方に差し出す。
「ほら」
そっぽを向きながら、ぶっきらぼうに言う恭也だったが、やはりと言うか、顔は赤かった。
美由希はそんな恭也に苦笑しながらも嬉しそうに自分の腕で恭也の差し出した腕を取る。
「へへへへ〜」
思わずにやけてくる口元を堪えようとするが、どうしても堪えきれず可笑しな笑いが出る。
「何をにやけている」
「うぅ、だって・・・」
呆れ顔を見せる恭也だが、その顔もどこか嬉しそうだった。
「赤星君、どうする?完全に二人の世界に入ってるよ〜」
「あははは。まあ、滅多に見れるもんじゃないし、ゆっくりと観察でもするか」
「本当ね。っ!あ〜、ビデオカメラ持って来るんだった〜!」
「おいおい」
忍の危険な発言に、赤星もさすがに冷や汗を垂らし苦笑いを浮かべる。
そんな二人の言葉も耳に入らないのか、恭也と美由希は嬉しそうに話をしながら寄り添い歩く。
小さかった頃に交わした約束を果たすかのように。
そして、新たに交わした誓いを確認するかのように・・・・・・。
おわり
<あとがき>
一応、これが真ENDというか、最初に思いついた話なんだけどね。
美姫 「果たして何人の人がここを見つけられたのか楽しみよね」
いや、ここに来るのはそんなに難しくはないと思うんだが。
美姫 「それはどうかしら?まあ、それよりも2話のちょっとした小ネタでもしましょうか」
小ネタ?ああ。
選択肢2の美由希編、これの最後の方のシーンのやつだな。
美姫 「観覧車の中でキスをする所ね」
そうそう。実はもう一つのバージョンを考えていたんだけど。
美姫 「どんなの?」
こんなのです。
と、まあこんな感じかな
美姫 「なるほどね。他には何かある?」
うーん、細かい所はあるけどそんなに違うのはこれぐらいかな。
あと小ネタがどうかは分からないけど、選択肢5の桃子編。
これ一度書いたのが保存をするのを忘れてぱぁーになったんだよな〜。まあ、全部じゃなくて2/3ぐらいが消えたんだけど。
後、選択肢6の美沙斗編も同じ様な事になったな〜。この2つをちゃんと保存していれば、もうちょっと早く完成したんだが。
美姫 「そういうのを後の祭りって言うのよね、確か」
うっ!くやしいがその通りだ。くぅぅぅぅーーーー。何度思い返しても悔しいぃぃぃ!
美姫 「まあまあ。そのお陰でなかがきでのお仕置きの続きはなしにしてあげるんだから。ね、落ち込まない」
うぅぅ、ありがとう美姫ぃ。うぅぅぅ。
美姫 「さて、浩が泣き崩れているから、今回はこのへんにしておくわ。じゃあね」