『An unexpected excuse』

   〜さくら編〜






「俺が、好きなのは…………さくらさんだ」

「ちょっと恭也!なんで、さくらなのよ!」

「なんでと言われても。ただ、何度か会ってるうちにな……。
 最初は、時折見せる寂しそうな顔が気になって見ていたんだが、そのうち笑顔が素敵な人だなって思えて。
 それから何度か会って、意外と可愛い所を発見したりとかしてるうちに、どんどん惹かれていったんだと思う」

真剣な顔をして言う恭也を見つめ、忍は大げさにため息を一つ吐くとFCの女の子達を解散させ、恭也に向かい合う。

「で、恭也。さくらのこと本気?」

「ああ……」

「……そう、恭也、さくらは私の親戚よ。この意味分かる?」

忍が夜の一族のことに関して言っている事を理解した恭也は無言で頷く。

「はぁー。だったら、私から言う事は特にないか。で、恭也、さくらにはもう言ったの?」

「いや」

「だったら、さっさと告白しちゃいなさいよ」

「いや、しかし断られたらと思うとな」

「もー、しかしもかかしもないの!それに断られたら私が慰めてあげるわよ。さっさと玉砕しちゃいなさい」

「玉砕って……断られる事は決定なのか?」

「いいから、いいから。忍ちゃんに任せなさいって」

言って忍は携帯電話を取り出すと、さくらへとかける。

「ちょ、ちょっと待て」

恭也は止めようとするが、時既に遅く忍の電話からは呼び出し音が聞こえてくる。と、同時にすぐ近くから、電子音が鳴る。
一斉に音のした方を見ると、物陰からばつの悪そうな顔をしたさくらが現れる。

「「………………」」

「……え〜と、さくら。なんでここに?」

お互いに無言になる恭也とさくらを見かねて忍が切り出す。

「あ、それは鷹城先輩に用があって」

「鷹城先生にですか?」

「ええ。ちょっと香港にいる友達が今度こっちに戻ってくるから。そのことで」

「そうですか」

「「…………」」

再び、沈黙する二人。それに痺れを切らした忍が恭也の背中を叩く。

「あーもー、じれったいわね!恭也は午後から早退!ほら、さっさとどっかに行きなさい」

「ちょ、ちょっと待て」

「待たない。っていうか、ここにいない人の声は聞こえないもーん。あ、鞄は放課後、美由希ちゃんに渡しておくから安心してね。
 じゃあ、昼休みももうすぐ終わるし、教室にもーどろっと」

一方的に言い放つと忍は美由希たちを促して、校舎へと入っていき、その場に恭也とさくらだけが取り残される。

「ご、ごめんね恭也くん。忍がまた勝手なことをして」

「いえ、別に構いませんよ。それに、さくらさんが謝る事はないですから。
 そ、それよりも、これからどこかに行きませんか。流石に早退扱いにされたのに学校にいるのは……」

「そ、それもそうね。とりあえず、臨海公園にでも行きましょうか」

「そうですね」

恭也とさくらは二人で海鳴臨海公園へと向う。
その間、お互いに何かを考え込んでいるのか、ほとんど会話らしい会話もしないまま目的地に着く。

「とりあえず、そこのベンチでいいかしら」

「あ、はい」

「「………………」」

二人してベンチに座るが、その後はやはり無言のまま時だけが過ぎていく。
このままだと埒があかないと思ったのか、意を決したかのように恭也はさくらに話し掛ける。

「あ、あの、さくらさん」

「な、なに?」

「さっきの中庭での件なんですけど……聞いてましたか?」

「あ、そ、その、ご、ごめんね。べ、別に聞くつもりだった訳じゃないの。ただ、忍がいるのが見えたから声をかけようと思って」

「別にそれは構わないんです。そ、それでですね……。あんな形じゃなく、ちゃんと言いたいので……」

「ちょ、ちょっと待って!」

恭也の言葉を強い口調で止めるさくら。それを拒否と受け取った恭也はさくらに頭を下げる。

「すいません。そうですよね、俺なんかじゃ……」

「ち、違うの!そうじゃないの。私も恭也くんの事……。でもね、駄目なのよ……」

「なんでですか?」

「私は人とは違うの」

「それは知っています。でも、そんなのは関係ない!」

「……。私はね、忍とも違うのよ。人狼の血が混じっているの!だから、耳や尻尾があって、外見的にも人とは違うの!」

「それでも!……それでも、さくらさんはさくらさんですよ。俺にとっては何も変わりません」

興奮して叫ぶさくらに優しく笑いかけながら恭也は続けて言う。

「俺はさくらさんが好きです。さくらさんは俺じゃ駄目ですか。
 人狼とかそういうものを抜きにして、さくらさん個人の気持ちはどうですか?」

「わ、私は……。さっきも言いかけたけど、私も恭也くんのこと……好きよ」

「本当ですか?」

「ええ。本当よ。本当に恭也くんのことが好き」

「だったら、それで良いじゃないですか。俺は人狼とかそういったものはよく分かりません。
 ただ、さくらさんが好きという自分の気持ちだけは分かっていますから。それじゃ駄目ですか?」

「本当にいいの?私で」

「はい。他の誰でもなく、さくらさんが……さくらさんじゃないと駄目なんです」

「恭也君……私も恭也くんじゃないと駄目……」

そのまま恭也の胸に飛び込む。恭也はさくらの身体を受け止め、そのまま腕を背中に回し、抱きしめる。
そして、顔を見合わすとその距離がゼロに近づき、……そのままキスを交わす。
一分、二分とそのままの状態でいた二人はどちらともなく離れ、微笑み合う。

「今度、耳と尻尾を見せてくださいね」

「ええ。二人きりになった時に見せてあげる」

言って恭也の腕を取ると歩き出す。

「じゃあ、行きましょうか?」

「どこに行くんですか?」

「忍の家よ」

「月村の家ですか?」

「ええ、ノエルには買い物に行ってもらって、そのまま忍を迎えに行ってもらうから、その時に耳と尻尾を見せてあげる」

「じゃあ、さっそく行きましょうか、さくらさん」

恭也の呼びかけにさくらは拗ねたような表情をするとそっぽを向く。

「どうかしましたか?さくらさん」

「むー。……わからないの?」

どこか幼い感じに話し出したさくらに問われるが、恭也は疑問を浮かべるだけである。

「本当に分からないの?恭也」

「!ああ。じゃあ行こうか、さくら」

「はい!」

恭也の出した答えに笑顔を浮かべて応えながら、組んだ腕に少しだけ力を強め、少し早足で歩き出す。
そして、二人は月村邸へと向って歩いていった。





〜 おわり 〜



  後日談




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